10年経っても覚えてる?ヒトと犬の記憶の違いを理解し、しつけに活かそう!

みなさんは愛犬を動物病院に連れて行くと、病院に着いた途端、石のように固まって動こうとしなくなってしまった…
逆に、大好きなドッグランに連れて行くと、尻尾をふりふりしながら興奮した様子を見せたことはありませんか?

これは、愛犬がその『場所』を、怖かった、楽しかったなどの感情を『記憶』として結びつけて覚えているからと言われており、
その記憶は場合によっては何年も続いて覚えていると言われております。

犬は人間同様、長期的な記憶を持つ生き物なのです。
では、犬はどのような仕組みで、物事を覚えるのでしょうか?また人間と犬では、記憶の仕方にどのような違いがあるのでしょうか?

これらを理解し、しつけや日々のコミュニケーションに役立ててみてください。

記憶とは?記憶の種類と共に解説

そもそも記憶とはどういうことを指すのでしょうか。
広辞苑に記載されている記憶とは『物事を忘れずに覚えている、また覚えておくこと。 また、その内容』と定義されています。

また学術的に、記憶はその保持時間に応じて、大きく3つのグループに分かれると言われております。

感情記憶

最も保持期間が短い記憶。
外部から刺激を受けた際に、瞬間的に記憶として残りますが、通常はすぐ忘れられます
そのうち注意を向けられた情報だけが次の短期記憶として保持されます。

短期記憶

名前の通り、短期間だけ保持される記憶。人の場合、保持時間は数十秒程度です。
電話をかけるまで、その相手の電話番号を記憶する、などが例に挙げられます。(かけた後はほとんどのケースは忘れますよね。)
犬の場合は、数秒~十秒程度と言われており、人間よりも短いです。

長期記憶

短期記憶に含まれる情報の多くは忘却され、その一部が長期記憶として保持されます。
保持時間が長く、数分から一生にわたって保持される記憶です。
人間同様、犬にもこの記憶の種類は適応されており、中には10年単位で長期記憶を保持している事例も紹介されています。

次項以降では、長期記憶のメカニズムと、犬と人間の仕組みの違いについてお話しします。

人間と犬の記憶のメカニズムはほぼ同じ?

ここでは、前述で話した長期的に物事を覚えている『長期記憶』について、より詳しく解説していきます。
長期記憶はさらに細かく分類分けされます。

手続き的記憶

一言で表すと、動作の記憶です。
人間で例えると、自転車に乗れるようになった。楽譜なしで特定の曲をピアノで弾けるようになったなど、反復練習で身体に刻み込むような記憶です。
犬の場合は、走る、歩く、マーキングをする、などより本能的で重要な動作記憶はこの手続き的記憶に保管されていると言われています。

意味記憶

意味記憶とは、その言葉の概念を連想させることで覚える記憶です。
例えば、レモン=黄色、すっぱい、丸い、などと連想をすることができる記憶を指します。
大多数の人が、レモンを単語を初めて覚えた時期やその時の情景が思い出せないと思います。
繰り返し使用し覚えることで、その内容だけが記憶されると考えられています。

エピソード記憶

かつて、犬はこの記憶方法を持ち合わせていない、と言われてきました。
ただし昨今の研究で、犬にもこのエピソード記憶に類似した記憶方法を持ち合わせている、と言う説が主流となっています。

言葉の通り、エピソード記憶というものは、
その出来事の経験そのものと、それを経験した時の様々な付随情報(時間や空間、感情など)の両方が記憶されていることを特徴とします。

人間で例えると、知人とキャンプを行った時の楽しい思い出が蘇り、また行きたくなる。といった内容です。
犬も同様に、冒頭の例で挙げた動物病院の事例なども、まさにこのエピソード記憶に紐づいていると言われています。

このように、犬も人間も、長期記憶を行うためのアプローチが類似していることが、研究によって明らかになっています。

では、人間と犬との決定的な違いはなんなのでしょうか?

犬は『事象』で覚え、言葉の『意味』は理解していない

人間と犬との最大の違いは、意味記憶です。
つまりは、言葉の『意味』そのものは理解できておらず、発する言葉の『音』と、起きている『事象』『感情』で結びつけ覚えているということです。

例えば、基本的なしつけのコマンドである”おすわり”を覚える際に、犬は言葉通り”座る”という意味そのものを理解し行動に示すのではなく、座った際に飼い主が褒めてくれた、おやつを与えてくれた、などの嬉しい感情体験がエピソード記憶として残り、繰り返し行うことでできるようになります。

人間が犬だけではなく、他動物と比較してもより高度な記憶ができるのは、言葉の『意味』を理解し、それを『文法』で繋ぎ合わせることができるからです。
これは大きな特徴になります。

例えば、今日の天気は晴れです、のように、”今日” “天気” “晴れ” という複数の単語の意味記憶のもと理解し、それらを文法で紡ぐことによって、複雑な内容の文章を構築し、理解・記憶に残すことができるのです。

ですので、犬に対し褒める、しつけをすることとして重要なことは、『意味』を伝えようとするのではなく、その時の『事象(行動)』と『感情』を結びつけることがとても重要なことになります。

記憶の仕組みを活用したしつけの基本

しつけのタイミング

例えば、愛犬がイタズラをした際に、その記憶というのは短期記憶として数秒〜十秒程度しか覚えていません。それ以降は忘却してしまいます。
その短期記憶を、長期記憶(エピソード記憶)として残させることが重要になります。
ですので、イタズラした『直後』に、飼い主さんから叱られて『いけないことなんだ』ということを、
行動と感情を結びつけることで、長期記憶として保存され覚えることができます。

使用するコマンド

前述でも伝えたように、犬は言葉の『意味』そのものは理解していません。
また、犬が覚えることができる単語の文字数は6文字程度とも言われているため、『短い』単語をコマンドとして使用することが望ましいです。
また、”ダメ” や “するな” といった単語の意味が類似していることを犬は知り得ません。
そのため、行動に対し使用する単語は統一化を徹底することで、犬の混乱を防げます。

記憶を上書きする

犬のエピソード記憶は上書きすることができる、と言われております。
例に挙げた、動物病院で嫌な記憶が残ってしまったケースの場合、病院直後に褒めたりご褒美を与えたり愛犬が喜ぶ行為をしてあげることで、その嫌な記憶はいい記憶に上書きされ、定着化しにくいとされています。
保護犬で、以前の飼い主から虐待を受け人間不信になった子が、愛情ある飼い主と接し続けることで心を開いてくれた、といった事例もまさに、その愛情が嫌な記憶を少しづつ上書きされたのではないでしょうか。

まとめ

いかがでしたでしょうか。意外と知っていたことでも、掘り下げていくと新たな発見もあったのではないでしょうか。
犬と人間との特徴の違いを理解することで、しつけや接し方で悩んだ際の一つの指標としてみてはいかがですか。

参考にした記事・文献

AMERICAN KENNEL CLUB
Your Dog Remembers More Than You Think
https://www.akc.org/expert-advice/lifestyle/dogs-remember/

犬が記憶を呼び起こすきっかけとなる感覚の検証
藤原 志帆 鈴木 優
https://www.interaction-ipsj.org/proceedings/2020/data/pdf/1P-87.pdf

「話す」・「聞く」・「わかる」:ことばの3つのオートマトン(上)-わかる」は動物の生存本能のはたらき- 得丸 公明
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsprs/49/4/49_4_274/_pdf

ヒト以外の動物のエピソード的(episodic-like)記憶 WWW記憶と心的時間旅行
関西学院大学文学部総合心理科学科 佐藤暢哉
https://www.jstage.jst.go.jp/article/janip/60/2/60_60.2.1/_pdf

記憶の分類
京都産業大学 コンピュータ理工学部 インテリジェントシステム学科 鈴木 麻希
東北福祉大学 感性福祉研究所 & 健康科学部 藤井 俊勝https://bsd.neuroinf.jp/wiki/%E8%A8%98%E6%86%B6%E3%81%AE%E5%88%86%E9%A1%9E#%E5%8D%B3%E6%99%82%E8%A8%98%E6%86%B6

PHYS ORG
Dogs may never learn that every sound of a word matters
https://phys.org/news/2020-12-dogs-word.html