致死率50%を超える感染症から、愛犬の身を守る混合ワクチンの重要性

愛犬の混合ワクチンの接種の有無を、ドッグランやペットホテル、ペットサロンなどの施設で確認されたことはないでしょうか。
他の犬への感染を防ぐために、特に初めて訪れる施設などでは確認される場合が多いかと思います。

そんな馴染みもある混合ワクチンですが、実際のところ、どのような感染症に対するワクチンなのか、意外と知らない方も多いのではないでしょうか。

今回は、当然のように摂取している混合ワクチンについて、それがどのようなものなのか、接種しなかった際の危険性も含め解説していきます。

混合ワクチンとは?

犬が感染する可能性のある感染症のうち、ワクチンで予防できる病気は複数あり、混合ワクチンはそれら複数の病気を一度で予防するためのワクチンとなります。

混同される方も多いですが、混合ワクチンは狂犬病ワクチンのように接種が義務付けられているわけではありません
ですが、中には感染すると重症化しやすく死亡率の高い病気もあるため、愛犬を守るためにも接種することを強くお勧めします。

また、他の犬への感染を防ぐために、ドッグランやペットホテル、ペットサロンなどでは、狂犬病ワクチンと一緒に、混合ワクチンの接種証明書を見せなければならない場合があります。
証明書はワクチン接種を受けた動物病院で発行してくれます。

次項では、混合ワクチンの種類と、代表的な感染症(ウイルス)を紹介します。

混合ワクチンの種類

混合ワクチンの種類は、2種〜10種まで幅広くあります。
種が多くなるほど、予防できるウイルスの種類が多くなります。

では種の数が多いほど良いのか、というと、必ずしもそうではありません。
例えば、7種以上で予防できる犬レプトスピラ感染症は、ネズミやタヌキなどの野生動物の糞尿に汚染された土や水から感染することがわかっています。
しかし裏を返すと、アウトドアやドッグランなどに頻繁に行くようなご家庭ではない限り、感染リスクはかなり低くなっており過剰接種になることもあります。

また、混合ワクチンは、大きく”コアワクチン” “ノンコアワクチン” に分けられます。
コアワクチンとは、WSAVA(世界小動物獣医師会)のガイドラインである「犬と猫のワクチネーションガイドライン」より、”世界中で感染が認められる重度の致死的な感染症” と位置付けされている感染症に対するワクチンのことを指します。

一方でノンコアワクチンは、”地理的要因、その地域の環境、またはライフスタイルによって、特定の感染症のリスクが生じる動物にのみ必要なもの”と定義されています。
感染したら重症化するものの、その範囲や影響は限定的だということです。上記で説明した、犬レプトスピラ感染症はまさにこの類になります。

そのため以下の図のように、混合ワクチンは、コアワクチンを主とおき、必要に応じてノンコアワクチンを接種するような構成になっているのです。

図:混合ワクチンの種類と予防可能な感染症

ここからは、実際に混合ワクチンでどのような感染症を予防しているのか、各々簡潔に紹介していきます。

・犬ジステンパー
犬ジステンパーウイルスにより感染する感染症です。
とても致死性の高い感染症で、感染した動物の死亡率も50-90%にも上る恐ろしい病です。
しかも感染後に、ウイルス自体を死滅させるような薬や治療方法は今のところ見つかっておらず、抗生剤などの投与で、二次感染を抑える程度しか治療法はないとされています。

感染後1週間程度で発熱し、一度は解熱するものの、2週間後には発熱の他、鼻水や咳、結膜炎、下痢、嘔吐、脱水、衰弱などの症状が併発するようになります。

・犬伝染性肝炎(犬アデノウイルス1型感染症)
感染犬の尿・唾液などの分泌物から感染します。
ワクチン接種の普及で症例自体は少なくなっているものの、感染した場合、重症化すると高熱が出て、感染後、半日〜1日程度で死に至ることもあります。
軽症の場合は、発熱、角膜炎、鼻水などの軽い症状が2〜10日間続いたのちに完治するケースもあり、一般的にこの単体の症状での致死率は10%程度と言われています。
犬ジステンパーと同様に、ウイルスそのものに対する有効な治療法はないため、対症療法となります。

・犬アデノウイルス2型感染症
乾いた咳を主症状とする感染力の強い呼吸器の病気であり、発熱、食欲不振、くしゃみ、鼻水などが症状としてあります。
これまで紹介した症状よりも重篤化はしないものの他のウイルスと共に同時感染を起こし、肺炎を併発するケースもあります。

・犬パルボウイルス感染症
パルボウイルスの感染により発症する病です。感染経路は、感染犬の糞便を口に入れることで発症します。
小腸の粘膜に感染することが多く、下痢や血便、嘔吐などの症状がみられます。それだけでなく、小腸粘膜が激しく損傷すると二次感染が起こり、敗血症などの深刻な症状になることもあります。

・犬レプトスピラ感染症
犬レプトスピラ感染症は、ネズミやタヌキなどの野生動物の糞尿に汚染された土や水から感染することがわかっています。感染すると、体の肝臓と腎臓といった各所で細菌が増え、炎症が起こります。悪化すると、肝炎および腎炎になります。
初期症状は、呼吸の乱れ、発熱や食欲不振などがあり、重症化すると、ウイルスにより血液が破壊され、鼻血や血便がでます。最終的には多臓器不全となり、死に至るケースもあります。

この犬レプトスピラ感染症は、いくつもの変異種が存在するため、レプトスピラの名を冠するワクチンが複数存在します。

・犬コロナウイルス感染症
これは、ノンコアワクチンの中で唯一、非推奨に分類されているワクチンです。WASVAのワクチネーションガイドラインでは、ワクチンの効果性の症例が少なく、また十分な証拠はないため、非推奨ととされています。
そのため日本の動物病院でも、犬コロナウイルス感染症のワクチンが入っている6,8,9,10種の取り扱いがない病院も一定数あります。

ワクチン接種頻度と費用

混合ワクチンの接種頻度は、成犬では1年に1度の接種が推奨されています。
生後1年以内の子犬の場合は、生まれてからの初乳を通じて母犬から免疫をもらいますが、その効果は45日から90日程で減少すると言われているため、生後2か月頃に1回目、生後3か月頃に2回目、そして生後4か月頃に3回目の合計3回のワクチンが打つことを推奨されています。
確実にワクチンの効果を得るための回数であり、その後は成犬同様、年に1回の接種が基本となります。

その費用は、接種するワクチンの種類によって大きく異なります。
各病院により異なりますが、相場は以下の通りです。

2種~4種:3,000円~5,000円程度
5種 :5,000円~7,000円程度
7種 :6,000円~9,000円程度
9種,10種 :10,000万円以上

まとめ

混合ワクチンの接種は、義務ではありません。しかし接種しなかったことで、本来防げた病気で愛犬が命を落とすこともあります。またそれだけではなく、愛犬自身が感染体となり、他の犬に移してしまうこともあります。
愛犬の健康を守るだけでなく、身近にいる多くの犬を守るためにも、継続した接種を心がけてみてはいかがでしょうか。
但し、ワクチン接種には多くの体力を消費します。愛犬の体調をみながら、適切な時期や種類は、かかりつけの病院の先生と相談してみてください。

参考にした記事・文献

WASAVA
犬と猫のワクチネーションガイドライン
https://wsava.org/wp-content/uploads/2020/01/WSAVA-vaccination-guidelines-2015-Japanese.pdf

一般社団法人 日本臨床獣医学フォーラム
犬伝染性肝炎
https://www.jbvp.org/family/dog/infection/04.html
犬ジステンパー
https://www.jbvp.org/family/dog/infection/02.html
犬パルボウイルス感染症
https://www.jbvp.org/family/dog/infection/03.html

アニコム損害保険株式会社
犬のレプトスピラ症とは|症状は? 治療費はどれくらい? 予防法はある?
https://cutt.ly/7wo2SBzo

一般社団法人 日本ペットフード協会
令和4年 全国犬猫飼育実態調査
https://petfood.or.jp/data/chart2022/index.html